58歳のお客様が、鏡の前で変わったストーリー
共有
「このスカーフ、
私には似合わないから」
その言葉を聞いた瞬間、
胸をつかまれた。
ある日、お一人のお客様からDMが。
58歳とご自身を紹介してくださった、
その方からのメッセージには、 どこか遠慮がちな温もりがあった。
バブルの頃に百貨店で買ったエルメスのスカーフがあって。
ずっとクローゼットに眠らせてるんですけど、
査定してもらえますか?
お送りいただいた写真は。
何年もしまわれていたとは思えないほど
美しい一枚が写っていた。
バブルの時代、きっと特別な気持ちで選ばれたのでしょう。
その丁寧な扱いが、布の艶に残っているようでした。
買った時はすごく嬉しくて。
けど、なんか勿体なくて。
そのままになってしまって。

他店査定は2,000円だったとのこと。
私の査定は1万円だった。

けれど査定額をお伝えする前に
お客様からこんな一言が届きました。
「このスカーフ、派手すぎない?
今の私には似合わないから…」
その言葉が、画面越しに静かに胸に刺さった。
「似合わない」とおっしゃりながら。
それでもずっと手放せずに
何十年も大切に持ち続けていらした。
その優しい矛盾の中に
本当のお気持ちが見えた気がした。
似合うかどうかを、ご自身ではなく
誰かの目線や、年齢や、「分相応」という言葉に 決めさせてきてしまったのではないか?
と 胸の奥でそっと感じていました。

言葉の端々に、
まだこのスカーフと一緒にいたい。
そんな気持ちが滲んでいました。
だから、こうお伝えしました。
「一度、実際に巻いてみていただけますか。
巻いたお写真を、送っていただけたら嬉しいです。」
「じゃあ、一緒に巻いてみましょう。
と、鏡の前に立ってもらった。
鏡の前に立ち、スカーフをまとったお客様の姿。
画面越しでも、はっきりと伝わってきました。
「大丈夫。見てください、鏡。」
巻いた瞬間。
◉表情が、ふっと明るくなり
◉姿勢が、自然とすっと伸びて
◉その一枚は、ずっとこの方のものだった
とわかりました。
お客様のお声
「え…。なんか、違うっ!」
その「なんか、違う」に、すべてが込められていて。
言葉にならない感覚が、画面の向こうから伝わってきました。
最終的に、このスカーフのお買取を見送られることになりました。
やっぱり…もう少しだけ、使ってみます。
数週間後、メッセージが。

そのメッセージを開いた瞬間、胸がいっぱいに。
「鏡を見るのが、楽しくなった」
その一言がどれほど尊いことか。
鏡の前に立つたびに、自分が遠く感じられていた時期が かつての自分にもある。
だから、余計にそのお気持ちが沁みた。
取り戻されたのは、
スカーフの使い方ではありません。

「自分は綺麗」と感じていい権利。
「自分に似合う」と信じていい自由。
誰かの目線ではなく、ご自身の感覚を信じていい。
そのことを、鏡の前でそっと思い出していただけたのなら、
それ以上に嬉しいことはありません。
エルメスのスカーフには、そうさせる力があると信じています。
このお店はその力が、正しく、温かく届く場所でありたいと思っています。